超短編:薔薇

彼女の左肩には薔薇のタトゥーがあった。赤い薔薇が白い肌に浮かんで見えた。
その薔薇に触れる。彼女の持つ肌となんの変わりも無い感触だった。
だから、この真っ赤な薔薇は僕にしか見えないものではないかと錯覚さえもした。
時計は午前2時を指す。それでもその薔薇はそこにあった。
キレイとは言えない生々しい赤は血を連想させた。脈を打っているようだった。
彼女は19のときにその薔薇を植えつけた。何も無い空虚がそうさせた。
そしてその薔薇は彼女とともにある。幸せも不幸せも共にある。
彼女はノースリーブを着ない。若かりし日への後悔は今始まったばかりだった。
 
肩まである黒髪とパッチリした二重まぶたと薔薇。それが彼女だ。
そして僕はまたその薔薇に触れる。少し汗ばんでいた。