「心にナイフをしのばせて」
「ユージニア」を読む前に、読破したのがこの本である。
この本はあの酒鬼薔薇聖斗事件の28年前に起こった、
同様の未成年による惨殺事件を書いたノンフィクションの話である。
まず、ここで「ノンフィクション」というのは、
「あくまで主観性を伴うものであり、事件の流れからして
他人からするとフィクションにも取られる可能性があるという一面がある。」
ということが言われている。
もちろん、この作品にもその意見は成り立つ。
あまりにも書き手が被害者の方に立ち過ぎではないかという声だ。
この作品において事件の概要を話すことはそんなに文意に逆らってはいないと
思われるため、少し説明する。
この事件の始まりは「加害者が被害者からいじめられていた」ということから
起こった話ではある。その部分を起点にものを考えていくと、これは極論だが、
この事件が起こしたことは「精神破たん」として処理されるものかも知れない。
ナイフで同級生を数十回突き、失血死した後に首を切り落とし、
自ら肩口を切り、他人の犯行に見せかけ助けを呼んだ…。
事件の概要としてはそういう話だ。「いじめ」から起こった事件にしては余りに加速度が激しすぎる。
余りに「いじめ」が加速したためにそうなった…と言ってもちょっと納得はいかないところがある。
しかし、この作品が「本当にしたこと」は非常に大きい。
この作品から被害者が「証拠」としてしか捉えられていなかった法曹界が
被害者保護の観点を見いだしたことが大きすぎる。
法律も制定されたり、法廷で被疑者との遮蔽措置がとられるようになるなど、
被害者の人権を尊重されつつある。
この話はその被害者の両親、妹の話である。
事件自体の話はそんなに詳しくは書いていない。
その一人一人の話がとてもぶ厚く、
何回も繰り返す(作為的かも知れないが)事件後の話がとても痛い。
そして、最後のはなし。これは余りにつらい。
「神がこの世にはいるのか」とさえ思ってしまう話。
この重たい暗い話の割には集中力が途切れない文脈。
傑作、と評してしまうのは難しいけど、こういう歪んだ事件関連の本の中では
意義がある本であろうと思われます。
- 作者: 奥野修司
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2009/04/10
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