大阪にて。二、天国と地獄 質感のない天国

地下鉄谷町線は大阪を縦に突っ切る路線だ。
同様に御堂筋線堺筋線も大阪を南北に縦断する路線であるのだが、
谷町線東大阪寄りであるために京阪や南大阪線
乗り継ぎしやすい路線である。
    
僕は天王寺を過ぎて阿倍野にて下車した。
ベルタ関西を過ぎて西に進む。高層マンションが立ち並んでいる。
マンションをすり抜けてまた西へ進む。10分も歩けばいきなり街並みが変化する。
一段下がった集落は華やかで清潔感のある街並みが広がる。
掃出しに上がり框。玄関に絨毯が引いてあり、綺麗な女性が座っている。
彼女らは可愛らしい座布団に座っている。前から照明も当たっている。
その脇には中年のおばさんが座っている。
それが道幅4.8mの通りに数十、その通りが何本もあるので全部で200以上
軒を連ねている。一軒一軒には「常盤」やら「長柄」みたいな(実際にはそういった名はない)
店の名前が付いている。名前の書き方には個性はない。すべて同じように
白い板に筆の字で書いてある。店も外見も二階建てで変わり映えがしない。
そう、これが「飛田新地」だ。
女性の方は全く知らないだろう。男性なら名前は聞いたことがあるかもしれない。
いわゆる「赤線」の名残で、日本では数か所残っている中の一つである。
僕がはじめに降り立った場所は「青春通り」といわれる場所で、
若い女性たちがいるエリアだ。このエリアを南下するほど年を重ねた女性たちがいる。
煌びやかで道には打ち水がしてある。まるでセットであるかのように生活感がない。
それに何か店それぞれに連帯感を感じずにはいられない。
やり過ぎ感がない。ある程度を保っているかのように思える。
長崎の人にわかりやすいように説明すると、新地の中華街の10倍の広さである。
        
僕はその光景にぼんやりした。
通りを歩くたびに「にいちゃん、にいちゃん」「にいちゃん、みといて」「かわいいやろ」
と中年のおばちゃんの客引きから声がかかる。おばちゃんは家から出てこない。
いわゆる客引き行為が禁止されているためである。
隣にいる女性たちはニコニコしながら男たちを見ている。
胸の部分が大きく開いた服、ホステスみたいにきらびやかな服、
時にはナース服を着ている女性がいる。きれいに巻き上げられた髪、
美しく化粧をした彼女たちはまるで人形かのように飾りつけられている。
周りに綺麗な花を飾ってあるところもある。
僕は何となく怖くなった。「なんだ、この空間は?」と思った。
夜の街の欝蒼とした空間とは違う。何となく時間が止まったかのようなレトロさ。
にこやかにほほ笑む女性たち。通りにやわらかな花の匂いがする。
もうここには余計なものがいらない。必要なものは欲と金だ。
       
悪くはない、とは思う。それは僕が男だからだと思う。
大阪にいた時代、僕はここに来たことがなかった。
京阪沿線ばかりに執着していたからだろう。
女性がこの光景を見たらどう思うのだろうか?怖いって思うだろうか?
この景色の余韻を保ったまま僕は北東に向かった。早くこの場から去りたい。
ホテルでゆっくり寝たい。明日は朝一の飛行機で帰らねばならない。
ここの詳しい情報が聞きたい方は「飛田新地」でググッてみてください。
僕もググッて知りました。
でも言っておくが、ここは「大阪市西成区」だ。