超短編:石

彼女と会ったのは17歳のときだった。
学校で見せる姿と全く違う暗部の姿で夜の街を彷徨っていたころだった。
うす暗い部屋のうす暗い場所で彼女と出会った。湿ったアスファルト
何故だろう、僕はその彼女に「全てが合っている」と感じてしまった。
彼女も僕と同じことを感じていた。懐かしい感じがした。
バカのような甘い言葉なんて要らない。そこには充実感や達成感があった。
体が合う、という感覚。どう言っていいのか判らないが、満ち足りた感覚。
時間が過ぎる。どうやっても時間は均等に過ぎ去っていく。
その時間をかき集めようとする。全てが手をすり抜けていく。
白熱灯が全てを照らす。でも色は少し赤みがかっている。暗影が濃い。
 
彼女はバッグの中から艶のあるキャラメル色の石を出した。
「幸せになれる石」
そう彼女は言った。僕はその石を受け取った。
幸せになりたい、そう思った。彼女と幸せになりたい。
でも、この「薄暗い世界」では人間性など存在しなかった。
日の当たる世界の僕も彼女もそのままでいられるはずがなかったのだ。

その石は数年、僕の部屋にあった。
今は多分若松の火力発電所のそばにある海岸にあるはずだ。
僕は確かに幸せを失った。後悔はしていないといえばウソになる。
薄暗い世界の石はこの世界には存在してはいけないのだ。
多分、そうなのだ。