彼(1)

彼は遠い遠いところに行ってしまった。多分、僕はそこには行けない。そこに行くには罪が多すぎる。
ふぅ、と溜息をつく。くだらなく大きいものに引っ付いて離れない友人を見るにつれ情けなくなる。現実はそんなに苦しいものかい?理想はそんなに切ないものかい?僕はそう問いたくなる。しかし、答えは目に見えている。その友人はこう答えるだろう。「言っている意味が分からない」と。
面白いもので、遠く離れれば離れるほどベクトルの方向の違いを理解することが出来る。一度ベクトルが離れれば同じ方向に戻すことは容易くない。
その団体が「掲示板を荒らした人間の息のかかった人間がいる」と言ったって、その友人にとってはどうでもいい話だろう。その友人は今充実感を得ている。いや僕にすれば恍惚感に見える。単なる自慰行為をしているに過ぎない吐き気のする満足感。
彼は掲示板にそういうことがあったときにすぐに確かな情報として送ってくれた。目を覚ましてくれた。そして「ああそういうことなのか」と理解することが出来た。それはあくまでも僕の予想した範囲内のことであり、不確実なタイルの並びに法則性を与えてくれたに等しい助言だった。ありがたかった。
でも、彼は遠い遠い所に行ってしまった。友人にメールしても返事がない。ああ、よく分かった。その自慰を続ければいい。まるでそういうものになった気になればいい。腐ったものには興味はない。あとは土に戻るのみだ。誰だって褒め称えられれば、親身にそういう演技をされればそういう風になるのだろう。それがカルトなんだよ。分かるかい?自慰行為の意味が。
彼は遠い遠いところで僕の意見を聞いて反論をするだろう。でも、いま良く見えるんだ。遠い遠い所にいるから。