ねがい

雨は仕方ない。遠い雨だ。なにも特に考えることなく一日が終わりつつある。
軍艦島」のDVDを見る。生活感が途切れた廃墟が写しだされる。
僕はその錆びた鉄くずになったかのようになる。脆く崩れていくかのようだ。
しかし、そこには青く茂った生命の息吹さえもする。
でも、それは本意ではないのだ。その雑草の息吹は本意ではない。
  
頭の中に同じ音楽がリピートする。
野弧禅の「カモメ」という曲だ。本意ではない、それは単に結果しかない。
でも生きてさえいればいいのだ。それがもともとそのモノでなかったとはいえ。
時間は美しいのだろうか?時間に質があるのだろうか?
僕にはそれが答えられない。
それを認めてしまうと、それと同時に自分を否定してしまうのだから。
  
いろんな人に会いたい。例えば、あの人に会いたい。
でも、僕が傷ついてしまいそうで、相手を傷つけてしまいそうで会えないのだ。
多分、答えは前者だ。でもそれだけではないのだ。
会いたくて仕方ない。もし、僕に、相手に不幸があったとき、このままでは納得いかない。
男には会いたくない。男は僕の接点にはないし、単に延長線上にしかない。
ストーリにも関係がない、単なる働きアリだ。一は一でしかない。
堺の製紙問屋のH氏に会ったところでなんと言えばいい?
確かに当時はいろいろとあった。でも、もう別れは済ませている。
そんなもんだ。消えた景色にはもう必要のない歴史しかないのだ。
  
脳裏に門真のあの汚いヘドロだらけの排水溝が浮かんだ。
何が生きて何が死んでいくのか明確ではない、それを思い出した。
携帯電話の契約に行くのに通った道の傍の排水溝だ。
その次には野江の汚い公園だ。染色工場の裏手の吐き気のする匂いのする、
黒い水溜りのある公園だ。入社試験の前に休憩した公園だ。僕にはそんなものしかない。
生活の中にある薄汚れたリアリティーだけが僕に襲ってくる。
桜宮の
ラブホテル街やら、雑居群しかない。真新しいとこを見る前に僕は壊れたのだ。
   
でも会いたい、会えない。相手にも都合がある。僕にだって少しはある。
今日は余り調子が良くないのだろう。このまま寝てしまおう。
悪夢だけは見ないように、深く寝てしまおう。きっと明日は明るい一日に違いないのだから。