東山手にて

東山手より。

仕事中、「ゴン」って音が聞こえた。東山手という長崎の昔ながらの坂道におじいさんが突っ伏していた。慌てておじいさんのところに行く。おじいさんの傍には使い古した杖と、ビニール紐に括られた3日分ぐらいの新聞の束。カラカラ…と音がして眼鏡がレールの向こうの側溝に落っこちた。
「大丈夫ね?おじいさん?」「あー、大丈夫、大丈夫…」
この道は比較的緩やかな坂道で石畳なのだが、その石畳の凹凸で足を引っ掛けたらしい。
「なんで引っ掛かったんやろうねぇ…」おじいさんは自問自答を繰り返した。「どっか痛くない?」「うんにゃ、痛くない」
おじいさんの眼鏡を側溝から取り、傍に座らせた。仕事が残っていた僕は、仕事場である脇道の奥の家に戻った。1分ぐらいして戻ると、おじいさんの傍に、近くにすむおばさんと他の家に向かおうとしていたデイケアの女性がいた。事情を説明すると、二人がおじいさんの家に連れて行くとのこと。すこしホッとして仕事を続けた。でも、なんとなく気になり、おじいさんの家のあたりを見てみると、数人の人に囲まれて枕をして横たわるおじいさんの姿が…。さっきのおばさんが救急車を呼んでいるようすだ。
「誰か道下まで救急車ば誘導してくれんね?」「私はお客さんの来とって…」「私は…」あー、もー。
「僕が行きますよ」「そうね、助かるばい」
大慌てで車が通る道路まで行く。すぐそこはオランダ坂。このあたりは中学の時の通学路だ。すこし過去を振り返りながらタバコを吸っていると遠くからサイレンの音がする。
あとから聴いた話だが、おじいさんはよくつまづくのだという。「気分が悪い」とのことだったが、血圧が低く貧血気味だったとのこと。救急車が走り去ったあとの東山手は普段の様子になり、日は温かくなりつつある。
こないだの件といい、悪いことにならなければいいがなぁ、と思った。

11日に壱岐に行くとのことだったが、12日に変更になる。仕事のプランが狂う。お陰で昼から休みになったよ。