彼(3)、13日の話(1)

彼が死んで10日が経とうとしている。今の僕は到底彼には及ばない。彼を聖人化しないように受け止めることは僕にとって難しいことだ。でも、そうしなければ向き合えない。

13日の話を少ししよう。

僕は朝9時に長崎を発った。大浦という場所から出島道路を通って高速へ向かった。目的地は松浦市、彼の育った場所だ。とにかく昼前に着くようにしたかった。昼ごはんの心配をかけたくなかったからだ。これ以上彼の、彼の親類の世話になるわけにはいかない。
ここ数日天気は晴れていた。彼の葬儀だった9日に雨が降ったが、それから灼熱の日々が続いていた。車の冷房が効きにくい。窓を開けるにはちと暑い。蒸し暑い夏は嫌いだ。やはり夏は嫌いだ。
仕事のたびに高速を走る。大村あたりまではよく走り、東彼杵まではたまに走る…といった頻度だ。いつもの坂の勾配とカーブが続く。AMしかないラジオをかける気にはならないので、ポータブルMP3プレイヤーを片耳にかけた。始動が遅いが、長い旅には欠かせない。