ばあちゃん。3

人の気も知れず、ばあちゃんはぐぅぐぅといびきをかいて寝ている。体を拭いてもらったのがあまりに気持ち良かったのだろう。そんなばあちゃんの傍らで僕は顔を度々見ながら、村上春樹の「海辺のカフカ」を読んでいた。
隣の病室をふとのぞくと痩せた老婆がヤクルトを飲んでいた。サイドテーブルには小さな老眼鏡と水差しが置いてあった。ばあちゃんの病室に戻る。テーブルは使わないためにカード式のテレビの前に置かれたままである。入れ歯も外したままだ。そのせいで顔が変わったかの錯覚に陥ることがある。しかし、ここに眠っているのは優しく見守ってくれたあのばあちゃんなのだ。
窓の外には路面電車が走っていて、少し騒々しい。今日は十月にしては強い日差しが差し込んでいる。片一方のブラインドを締め、病床のばあちゃんの上半身を影にした。
ポンプによってブドウ糖と電解液が注ぎ込まれて行く。僕は少し眠たくなった。